金沢大地グループの考え

金沢大地グループは、「千年産業を目指して」を経営理念とし、石川県で環境保全型農業を営むオーガニックファームです。

耕作放棄地を中心に耕し、金沢郊外や奥能登に位置する日本最大規模の広大な農地(約180ヘクタール)で、米、大麦、小麦、大豆、蕎麦、野菜などを有機栽培しています。

生産者の顔が見える関係を大切にしたいと考え、自社農場の有機農産物を主原料とし、安心して食べていただける暮らしに身近な加工品も幅広く製造・販売しています。

金沢大地グループの物語

原体験

河北潟での舟遊び 昭和32年頃

代表の井村は魚釣りや虫取りに夢中な少年で、河北潟干拓地を格好の遊び場としていました。

しかし高度経済成長期に入り農薬の使用が盛んになると、河北潟干拓地周辺の自然環境が激変。

農薬散布後の畑では多数のバッタが死に、魚は水面に浮かんでいたと言います。

これは井村が環境や生物多様性を大切に思う原点となっている体験です。

脱サラし就農

井村は広告代理店に勤めた後、1997年に脱サラして就農します。

広告代理店勤務時代、ちょうど世の中で持続可能性というテーマに関心が向き、リサイクルやリユースという言葉が使われ始め、「これからは環境と仲良くできない仕事は残っていけない」という流れを感じたと言います。

そんな中で実家の家業である農業に目を向けると、環境に対して親和性が高く持続可能性のある仕事だと気付きます。

少年時代に遊び場にしていた自然環境が高度経済成長期の中で激変していくのを経験し、生物多様性や持続可能な社会に関心もあったことから就農を決断。

農家の苦労を知る周囲からは心配する声もあがりましたが、「曇のない明るいイメージに満ち溢れていて、周りが何でそのように言うのか理解できなかった」と言います。

就農時に思い描いた設計図

井村辰二郎が就農時に思い描いた設計図

この図は井村が1997年、就農時に思い描いた設計図です。

有機農業で生産した米、大豆等を加工し醬油や味噌を作り、そこで出た米ぬかや醤油しぼりかす等の廃棄副産物で有機肥料を生産する循環や、再生可能エネルギーによる電力供給に食育等が描かれています。

この設計図をもとに農業を始め、ひとつひとつ出来ることを増やし、農業を中心とした持続可能な営みを築いてきました。

設計図の現実化は今も進行中です。

生産量の確保と安定供給を実現するため規模拡大に挑戦

今でこそ有機で作られた農作物は認知されるようになりましたが、就農当時は有機JAS認定もなく、理解を得るのに苦労ずくめでした。

食品メーカーに有機大豆の利用を求めても「国産有機大豆なんてある種のブーム。米国や中国の有機原料で十分。慣行の国産大豆ですら安定供給できないじゃないですか」とあしらわれる始末。

しかしこの出来事をきっかけに、食品メーカーが求める量の生産と安定供給を実現するため、規模拡大への挑戦を始めます。

40ヘクタールから始まった農地は20年以上にわたる開拓の結果180ヘクタールに拡大し、有機大豆に至っては国内の生産量の約10%にあたる130トンを供給できるまでになりました。

耕作放棄地を耕す理由

能登の耕作放棄地

就農間もない頃、農地のある河北潟干拓地に耕作放棄地があることを知ります。

国のパイロット事業として開拓された河北潟干拓地ですが、農家の高齢化や離農等で1100ヘクタールの農地の内200ヘクタールが耕作放棄地となり、荒れ果てた状態でした。

「なんとかしたい。これを耕さないでどうするんだ」という心持ちで耕し始め、1年で10ヘクタールずつ農地を広げていきました。

そうすると周囲の農家も「井村のあんちゃんがやるなら」と開拓に加わり、10年で200ヘクタールあった河北潟干拓地の耕作放棄地をなくすことができました。

農地は耕してこそです。耕作放棄地はなくすことができます。

日本最大級のオーガニックファームになっても変わらないもの

20年以上にわたり開拓を続けたことで金沢大地グループの耕作面積は180ヘクタール(兼六園にして10個分)に拡大しましたが、環境負荷の少ない農業、生物多様性を大切にする姿勢は変わりません。

農作物の1割、2割を生態系に分けることになっても、持続可能な有機農業を実践します。

自然界に一人勝ちはなく、農作物を食べる害虫が増えればそれを捕食する虫や鳥が増え、生態系が豊かになります。

有機農業を続けた結果、2020年に河北潟干拓地の農地にコウノトリが飛来するようになり、2022年には産卵が確認されました。

有機農家としてこれほど嬉しい自然からのメッセージはありません。

取り組みの紹介

就農当時に描いた設計図をもとに、実現した取り組みの一部を紹介します。

農家としての責任を

金沢大地グループ 代表 井村 辰二郎

日本は食料・農林水産業を持続可能なものにするための具体的な目標(みどりの食料システム戦略)として、2050年までに以下を目指すことを世界に向けて宣言しています。

  • 耕地面積に占める有機農業の割合を25%、100万ヘクタールへと拡大すること
  • 化学農薬を50%減らし、化学肥料も30%減へらすこと

これに対して現在の有機農業の割合は0.2%しかなく、化学農薬や化学肥料を使う慣行農法が圧倒的なシェアを占めているのが現状です。

みどりの食料システム戦略は決してかんたんに達成できる目標ではありませんが、日本が持続可能な食料・農林水産業にシフトしていく重要な転換点です。

農業は利潤だけを追及する産業であってはいけません。地域の田畑や景観、治水、生態系などいろいろなものを守る使命があります。

金沢大地グループは経営理念に掲げた「千年産業を目指して」を実現すべく、これからも農家として責任のある行いを実践していきます。